エコノミークラス症候群について


身近で怖い病気の「エコノミークラス症候群」、その症状は?予防はどうやって行う?

<エコノミークラス症候群の概要を知る!>

飛行機で長時間旅行した後に降りて歩き始めた途端、急に呼吸困難やショックを起こし、最悪の場合は死に至るというケースがエコノミークラス症候群の典型的なものです。

飛行機のエコノミークラスのような窮屈な状態で、長時間椅子に座ったままの状態を強いられていると、足の血液の流れが悪くなります。
この状態が悪化すると、静脈の中に血塊(静脈血栓)ができることがあります。

この静脈血栓は歩行などをきっかけに足の血管から離れ、血液の流れに乗って肺に到着し、肺の動脈を閉塞してしまいます。これがエコノミークラス症候群の典型的なケースの発病までの流れと言えます。


エコノミークラス症候群は決して飛行機のエコノミークラスの乗客に限って発症するものではなく、ビジネスクラス以上の乗客や、トラックや乗用車の長距離運転手などにも発症することがあります。
これらの実情を含め、「旅行者血栓症」とも言われます。

医学的に厳密な定義をするならば、上記に挙げた窮屈な状態で足の静脈内に血栓ができる「深部静脈血栓症」のことで、その血栓が歩行などをきっかけに肺に飛び、肺の血管を閉塞してしまうのは「急性肺血栓塞栓症」のことです。

しかし、最近ではエコノミークラス症候群という呼称でこの一連までの流れをまとめているような実例もあり、「静脈血栓塞栓症」と呼ぶことも多くなっています。

 <エコノミークラス症候群の具体的な症状とは?>

エコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症の症状は、どの程度の大きさの静脈血栓が杯に飛んできたかにより左右されます。比較的小さい血栓の場合は、まったく無症状である場合もあります。

しかし、ある程度以上の大きさの血栓が肺動脈を閉塞すると、呼吸困難が生じます。

肺の大切な役割はガス交換です。身体の外から酸素を取り込み、二酸化炭素(炭酸ガス)を体の外へ吐き出す働きです。
人間の呼吸の基本的な作用です。

エコノミークラス症候群によって肺血管が詰まると、呼吸によって肺の中まで入ってきた酸素が血液中に十分量取り込まれなくなります。

この結果、血液の酸素の濃度が低下します。
呼吸困難といっても実際に呼吸の動作が出来なくなるわけではなく、呼吸をしていても、ガス交換が十分なされないため、事実上の窒息状態となっているのです。
また、大きな血栓が肺動脈に詰まると血液は全く流れなくなります。
この場合は失神やショックにつながります。

急性肺血栓塞栓症の患者の80%程度は、主な症状が突発性の呼吸困難です。
呼吸困難の発作は一回だけのこともありますが、数回の発作が生じ、その度に状態が悪化する場合もあります。
また約50%で胸の痛み、10から30%で失神発作を生じます。
全身の倦怠感や不安感、動悸、冷や汗などの症状が副症状として顕れることもあります。


 <エコノミークラス症候群はどうやって判明する?>

エコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症の症状は、具体的にその自覚症状を疾患に結びつけて自己診断することは難しいです。
また重症の場合は突然の失神や心停止が生じますので、診断はさらに困難となります。

以下に紹介する診断方法は、医療機関において軽度な急性肺血栓塞栓症の推定や診断に使われるものです。

 ①血液検査

 ②心電図

 ③心臓エコー検査

 ④肺血流シンチグラム

昨今、症状の推定には③心臓エコー検査と、④肺血流シンチグラムが有用であると考えられています。

以上のような検査でエコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症を概ね推定することは可能ですが、その確定には、肺動脈の中に血栓を認めなければなりません。

これには超高速CTが用いられます。これによって間違いなくエコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症と診断された後は、血管エコーと呼ばれる検査で、足の静脈内に血栓が残っていないかどうかを調べる必要があります。

これが診断までの一連の流れです。

 <エコノミークラス症候群の治療はどのように行う?>

エコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症と診断された場合、その後の治療は大きく3つのパターンに分けられます。

 ①抗凝固療法

自覚症状が比較的軽く、肺や心臓の機能があまり阻害されていない急性肺血栓塞栓症は、飛んできた血栓があまり大きくない可能性があります。
そこで血栓が大きくないことが超高速CTで確認されれば、血栓がこれ以上できないようにする薬を用いて経過を見る抗凝固療法という方法が採用されます。

②血栓溶解療法

急性肺血栓塞栓症で詰まった血管が広範囲の場合は、体の中の酸素の量が極端に低くなったり、低血圧やショック、失神したりする重症になるケースがあります。
抗凝固療法のみだと命に関わる危険性があり、詰まった血栓を積極的に溶かす血栓溶解療法を行う必要があります。

③下大静脈フィルター

エコノミークラス症候群による急性肺血栓塞栓症を発症した患者で、次の発作で致命的な病状に陥る可能性がある場合は、下大静脈フィルターを使う場合があります。
これを静脈の心臓と血栓が存在する部分の間に入れ、これ以上血栓が肺に飛ばないようにします。

以上は治療の余地(時間)があるケースにおける治療法ですが、心停止状態や、症状が極めて重く内科的な治療を行う猶予のないケースがあります。

この場合、心臓血管外科がある病院では、肺動脈血栓摘除術という緊急手術が行われますが、この手術が行える設備や医者を持った病院はそう多くありません。次に、カテーテルを肺の血管の中まで挿入し、詰まっている血栓を取り除く緊急治療があります。
これもその実行には経験や知識をもった医療体制が必要で、簡単なものではありません。

 <エコノミークラス症候群に関するまとめと、その予防方法>

以上、エコノミークラス症候群について簡単にご紹介しましたが、エコノミークラス症候群に対するまとめとして重要なのはその予防の部分です。

エコノミークラス症候群はその発症までのメカニズムがある程度一本道で、自助努力によってその発症する可能性を下げることが出来ます。

飛行機で長時間のフライト中や、長距離の運転などで狭い空間に座り続ける場合、十分な水分を摂取する一方、脱水作用や利尿作用のあるアルコールやコーヒーを控えることが望まれます。
また、可能な限り足を上下に動かすなどの運動を行うことが重要です。

またエコノミークラス症候群の発症には、その人の血液の性質も関係してきます。
血液が凝固しやすい性質なのか、血液が固まりやすい生活習慣になってはいないかという日頃からの健康管理も重要でしょう。